よく耳にする論調をまとめると、

  • 飼育頭数の減少が明らかになっている
  • 2008年をピークに減少傾向にある
  • 犬の高齢化のため5年後にはさらに減少する

というようなものだ。 「飼育頭数 犬 減少」で検索をかけてみてもおおよそ上記を補強するような情報が散見できる。

しかし、実際はどうだろう。 都内で犬を見かける機会は以前より増えているように思えるし、ペット可のマンションやペット同伴可のカフェ、犬と宿泊できる宿など、これまでになかった新しいサービスも増えている。 「ペット」という存在が、以前のような一過性のブームとしてではなく一種の文化として根付いている印象だ。

ではペット業界で一体何が起こっているのか?

下記に調査の結果をまとめた。

飼育頭数減少傾向説の根源

調査を進めるうちにわかったのが「飼育頭数減少傾向派」のほぼすべてが「一般社団法人ペットフード協会」による「全国犬猫飼育実態調査」を根拠としている点だ。

いずれも検索上位にヒットする注目を集めているであろう記事だが、これらすべてに「一般社団法人ペットフード協会」が登場する。

一般社団法人ペットフード協会とは

ペットフードの普及、啓発等を目的としたボランティア団体。 会長を務める石山 恒(いしやま ひさし)氏は100カ国以上でペットフードを販売する世界最大のペットフード製造販売会社「マースジャパン」の副社長。 その他にも行政からの委託事業や講師派遣事業を行う「公益社団法人Knots」という団体にも席をおいている。

この調査結果を2004年からグラフにまとめ直した。

一般社団法人ペットフード協会 全国犬猫飼育実態調査

まずはこのデータを紐解いていこう。

「全国犬猫飼育実態調査」の調査方法

調査結果や調査方法は同Webサイト内で広く公開されている

まず最新、2014年のデータをみると調査方法は「インターネット調査」とある。 つまり、インターネット環境のない家庭で飼育されている犬については「実態のないもの」とみなしている。 この時点で調査結果にはかなりのフィルターがかかっているといえるだろう。

そして、抽出方法には「株式会社インテージ」によるネットリサーチ事業「キューモニター」と「GMOインターネット株式会社」の「GMOモニター(現(infoQアンケート)」により算出した数値であることが書かれている。

このネットリサーチ事業というのがどういうものかご存知だろうか? 上記の「キューモニター」「infoQアンケート」は端的にいえばいずれも「会員登録して定期的に送られてくるアンケートに答えると報酬が貰える」「集めたアンケート結果を企業に売る」というビジネスモデルだ。 「お小遣い稼ぎのためのサービス」として各所で紹介されている。

つまり、一般社団法人ペットフード協会が発表している全国犬猫飼育実態調査は、より正確にいえば「アンケートモニター会員の犬猫飼育実態調査」にすぎない。

さて、この調査方法は適切だろうか?

「飼育頭数」ではなく「飼育実態」

そうなると、一般社団法人ペットフード協会が行っている全国犬猫飼育実態調査は全くの茶番かというとそれは大きな間違いだ。 「アンケートモニター会員の飼育頭数が減少している」という事実は間違いなく数字に現れており、それは真摯に受け止める必要がある。

そもそもこの調査は「飼育頭数調査」ではなく「飼育実態調査」。 結果において重要なのは飼育頭数ではなく、その他の項目だ。 「犬・猫 飼育・給餌実態」「ペット飼育阻害要因およびペット飼育の効用」「あったらいいと思う飼育サービス」「ペット飼育の効用」等の調査項目は他に類を見ない非常に有用なデータといえるだろう。 これほどまでに大規模なアンケート結果を広く公開してくれている団体は他なく、一般社団法人ペットフード協会の貢献は計り知れない。

つまるところ、間違っていたのはデータではなく、その読み解き方だ。

実際の飼育頭数

「ペットフード協会の調査は飼育頭数ではなく飼育実態だった」。 これで飼育頭数現象説が覆せたかというとそうではなく、たったひとつのデータの正しい見方を知ったに過ぎない。

次は正しいデータを見つけることだ。

筆者からおすすめしたいのは厚生省が公開している「犬の登録頭数と予防注射頭数等の年次別推移」だ。 調査の母数も圧倒的に多く、金銭目的のアンケートでないだけでなく、飼い犬の登録と毎年の狂犬病予防注射は法律で義務付けられているため、飼育頭数だけでいえばより正確なデータといえる。 そもそも狂犬病予防注射すらされていない犬であれば大抵の市場でターゲットには成り得ないため、ほぼこれで網羅できる。

これを先と同様のグラフにまとめた。

厚生省 狂犬病 犬の予防注射頭数

毎年正しく更新されるであろう予防注射頭数の方をグラフに採用した。

やはり減少している。 ペットフード協会が公開しているものよりもより急激な減少だ。 では街中で、カフェで、新しいサービス展開でみる犬たちは幻だったのか?

最後に、「犬の登録頭数と予防注射頭数等の年次別推移」の都道府県別のデータを読み解こう。 場所はペット業界の中心地。日本の首都、東京だ。

東京都福祉保健局 狂犬病 東京都犬の登録頭数

東京では2014年、公開されている最新のデータでやや陰りが見られるものの増加を続けていた。 こうしてみると、ただ人と同様に都心部に集中し、地方の過疎化が進んでいるだけのことだ。

今回は人口の増減については調べていないが、犬たちはただ人と同様に増え、同様に少子高齢化し、結果として減少しているだけではないだろうか?

当然といえば当然だ。彼らは一過性のブーム等ではなくなった。人と一つ屋根の下で暮らす「家族」なのだ。

蛇足になるが、面白いデータを置いておこう。 ペット関連の事業を始める際には法律で提出が義務付けられている、「動物取扱業届け出」をご存知だろうか? この届出についてもデータが公開されている。

環境省 動物取扱業の登録状況

2009年の爆発的な増加から2012年に多少の減少もあるが、基本的に今もなお増え続けている。 これでは飼育頭数減少を嘆きたくもなるが、このデータが示しているのはペット業界の終焉ではなく、ある種の成熟だろう。

飼育頭数を増やそうとパピーミルさながらの商法に走るのではなく、今後は彼らを「家族」と認め、より質の高いサービスを提供できるような業界に成長してもらいたいものだ。 そして、消費者も同様にそうした質の高いサービスこそ生き残っていけるよう確かな目を持っていただきたい。

データで読み取るペット業界 飼育頭数減少の真実 グラフ

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