ペットブームもついに成熟期に入ったのか、犬や猫に飽き足らず、フクロウやハリネズミ、トカゲなどの個性的なペットの飼育ももはや一般的と呼べるレベルになってきました。 当サイトではペットに与える水の重要性についてご紹介していますが、いまのところ犬や猫などの哺乳類がメインになりがち。 本日は空前のブームとなっている「フクロウ」や、「文鳥」「インコ」など馴染み深い鳥類と「水」に焦点をあててご紹介していきます。
実は先日、日本人の国民性を皮肉ったこんな逸話を耳にしました。
ある冬の寒い日、屋外で飼育しているヒヨコたちを不憫に思い、いつも与えている水をお湯に変えたところ、次々とみんな亡くなってしまった。
一見すると美談のようなはじまりから、まさかの結末。 「相手を思いやるふりをして自分本位の善意をおしつけると、時として思惑と逆の結果をもたらす」という逸話のようなのですが、鳥類愛好家にとっては恐ろしい話です。 ホットミルクやコーヒーでも与えたならまだしも、「お湯を与える」だけならそこまで突拍子もない発想ではないはず。 命まで奪ってしまうとは誰が予想できるでしょう?
これが実話なら同じ状況で自分が同じことをしない自信はありません。
亡くなってしまったのはヒヨコだからなのか? 他の鳥類は大丈夫なのか? 問題は本当にお湯なのか?
恐ろしい結末を見ないためにも、早速調べていきましょう。
ヒヨコにお湯を飲ませると死んでしまう、というはっきりした情報は見つけられなかったのですが、動物病院の先生が鳥が弱ってしまった際の応急処置として、
- 29度に暖めること - *砂糖入りのお湯*や温かいハチミツを飲ませること - さし餌をすること - 風を当てないように保温し、なるべく早く病院に連れて行くようにしてください - 爪を切って出血した時は、線香で先端を焼いて止血するか、片栗粉をつけて五分間圧迫止血してください 小諸さくら動物病院
と紹介しているのを見つけました。 ただ、こちらでは具体的な温度の指定がなかったためさらに調査を進めたところ、
というような対応が望ましいようです。
これで鳥類に40度前後のお湯を与えるのは問題なさそうということがわかりました。
残った可能性は、
というような場合に絞られるでしょうか。
これは有名な話ですが、鳥類のヒナは体温調節が苦手です。 羽根が生えそろう生後三週間前後まで自分ではほぼ体温調整ができないそうで、ヒヨコ同士が集まって暖をとる姿を目にしたこともあるのではないでしょうか。 フラミンゴが体温低下を防ぐために片足を上げているという話も有名ですよね。
もし鳥たちが寒そうにしていると感じた場合は、直接お湯を与えるのではなく、60度程のお湯で満たしたペットボトルを置いてあげるのがいいそうです。 その際、暑くなったら自分で離れられるよう、スペースを確保してあげてくださいね。
ヒヨコが死んでしまった原因は恐らく「体温調節が苦手なため」と思われます。 体温調整の苦手なヒヨコが真冬の気温をお湯によって一時的に上げられてしまい、すぐにお湯は冷めて気温は逆戻り。 もしかしたら少しはお湯を飲んで、それも一時的な体温上昇に繋がっているのかも知れません。 そして、気温の変化に体力を奪われ、そのまま寒さで亡くなってしまったのではないでしょうか。
どの程度の温度のお湯をどのくらいの量与えたのかわかりませんが、飲めないお湯を無理に飲み続けて死んでしまうようなことは考えにくいでしょう。 また、少しのお湯を飲んだところで鳥にとって害はないのは先述の通りです。
つまり、
これらのことさえ知っていればヒヨコを死なせてしまうようなことにはならないでしょう。
お湯を飲むこと自体は問題にならない、というのが結論で間違いないのですが「お湯」の扱いについて一点注意点があります。
鳥類は羽根の付け根の「尾脂腺(びしせん)」と呼ばれる器官から分泌される油を羽根に塗ることで、羽毛を水や汚れから守っています。 しかし、お湯に浸かるとこの油が流れてしまうことで水を弾けなくなります。 こうなると、全身の羽根に水が浸透してしまうばかりか、乾燥にかかる時間も長くなり、急激に体温が奪われる結果に。
冬場はお風呂に入れてあげたくもなりますが、鳥たちのことを考えるならお湯は避け、25度以下の水を用意するようにしてあげてください。
ただ、羽根にフンが張り付いてしまっている場合などは鳥にとっても不衛生なため、お湯をつけた綿棒などでとってあげるのが良いそうです。
鳥たちの尾脂腺についてですが、すべての鳥が同じではありません。 鳥は非常に種類が多く、世界では約9,000種類。日本だけでも約600種類もの鳥が記録されており、犬や猫の非ではないことがわかります。
ここで例外となるのは、フクロウなどの猛禽類やサギ、身近なところではハトなど。 これらの鳥は尾脂腺があまり発達しておらず、かわりに「粉綿羽(ふんめんう)」という特殊な羽根を持っており、この羽根から「粉」を出すことで尾脂腺の油と同じ役割を果たしているのだとか。
この場合はお湯での水浴びも大きな問題にはならないそうですが、水浴び後は体温が下がらないよう注意して見守ってあげましょう。
鳥たちをお湯で水浴びさせる危険性については先述のとおりなのですが、実はここで困った問題が。 ペットとしても大人気のインコは持ち前の好奇心と生まれ持った習性から、率先して水に飛び込んでしまうそうなのです。
これが普通の水ならいいのですが、中には「沸騰しているお鍋に自分から飛び込んでしまった」というような痛ましい事例も。
しかも、鳥は不調を表に出さない生き物。 何か気になることがあった際は、どんなにいつも通りに見えてもすぐに動物病院に連れて行きましょう。
そして最後に忘れてはいけないのが、フクロウや文鳥、インコなどの鳥類にとってミネラルはどう影響するかということ。 犬や猫などの哺乳類はミネラルをうまく消化できず結石のリスクを高めるとのことなのですが、なんと鳥類は哺乳類と比べ結石の症例がほとんどないのだとか。
つまり、すでに結石を発症している場合などを除けば、硬度などは一切気にせずミネラルウォーターを与えられます。
水道水の塩素なども衰弱している場合などを除けば問題になることはあまりないそうですが、成長期のヒナなどはできるだけ控えたほうが賢明でしょう。
ただし、塩素によるものとはいえ衛生面での保証はやはり魅力的ですので、「あまり水換えをしない」「長期間溜めておく必要がある」場合などはミネラルウォーターは避けたほうがいいかも知れません。
みなさんは鳥たちと水、お湯のこと、どの程度ご存知だったでしょうか? 「ヒヨコとお湯」の逸話からかなりの文献を漁りましたが、鳥の種類は膨大な上、犬や猫と比べて出回っている情報は少なく、専門家によっても言っていることが違ったり、と情報収集は困難を極めました。
ヒヨコのような家畜としての歴史の長い鳥でさえそうなのですから、最近ブームとなったばかりのフクロウなどはさらに情報が少ないものと思われます。
人と同じ哺乳類である犬や猫以上に、鳥類はまったくの別物。
わたしたちに「冬眠」や「えら呼吸」ができないように、鳥類もわたしたちと同じようにはできません。 鳥たちを飼育する上で「もし自分なら」という感覚に頼るのではなく、しっかりとした情報を集め、適切に付き合っていきたいですね。